1.はじめに
さる7月13日,京都駅前の「ぱ・る・る プラザ京都」において,特定非営利活動法人IT教育推進協議会(略称ITED)の設立記念式典が開催された。ITEDの会員はもとより,京都府議会,商工会議所,税理士会,その他各種関連団体などから計50数名が集結し,期待と熱気に満ちた式典となった。式典の中,記念講演として行われた高島利尚先生の講演「IT革命下における情報リテラシの考え方」は,多くの出席者の心を揺さぶるとともに,ITEDの船出においても,この上ない贈り物となった。
「IT革命」という言葉だけが一人歩きし,またマスコミ等で喧伝され続けてきた中,今その本質がようやく議論されようとしている。それと時を同じくして「ITを活用するための情報化人材教育」の重要性がクローズアップされてきている。このような中,あえて特定非営利活動法人(NPO)として立ち上げられたITEDの意義と,今後の方向性について考えてみたい。
◆ITED設立までの経緯
平成13年2月11日 設立総会
平成13年2月15日 NPO認証申請手続(京都府)
平成13年5月24日 京都府知事よりNPO認証
平成13年6月14日 法人登記
平成13年7月13日 設立記念式典
2.NPOというもの
ITEDはNPO(として今回設立されたわけであるが,まずこのNPOというものについて,ここで改めて整理しておく。
NPOは,特別法であるNPO法に基づいて定義される法人格である。そもそもNPO法は,阪神淡路大震災の経験などを契機に,主としてボランティア団体等の法人格取得の手段として,議員立法により成立した経緯がある。一方で,通常の営利企業や行政が主体となることに諸々の問題がある事業においては,市民より自発的に生まれた団体が事業主体となることが望まれていた。実際にNPO法を見る限りでは,無償奉仕のボランティア団体のための仕組みであるだけではなく,ビジネス型の組織も想定されている。
一般には,「特定非営利活動法人」ということで,この「非営利」という部分が誤解をされていることが多いのではないかと思う。実際には,NPOの行う事業においても,労働の対価は有償が原則である。逆に,NPOであったとしても,その提供するサービスにおいては,市場で厳しく評価され,また淘汰されることすらある。最大の特徴は,事業活動において生じる利潤から,役員賞与や税金などを除いたあと,残った利益の充当先が通常の営利企業とNPOで大きく異なる点である。通常の営利企業であれば,利益は最終的に出資者(株主)に帰属するが,NPOの場合は本来業務に再投資する。この点については,いわゆる無償奉仕のボランティアとは完全に区別して考えなければならない。
3.ITED設立の背景
◆営利企業が行う情報化人材教育への懸念
◆技術に偏ったIT社会への危機感
◆コミュニティツールとしてのITの健全な活用
政府のIT推進策に代表されるように巷のあちらこちらでIT革命が叫ばれる中,並行して情報化人材教育も時代の脚光を浴びてきている。「国民のITリテラシ向上なしに,日本が国際社会の中で先進国としての地位を維持することはできない」という危機感がその背景にあるのは事実であろう。
既存の教育産業においても,徐々に情報化人材教育に対して注力しはじめているが,その内容は単に資格取得の目的に終始しているものが多い。また,街にあふれる「パソコン教室」においても,単にパソコン操作の技術研修にとどまり,本当の意味での情報化人材教育が行われているとは思えない。逆に,情報化人材教育がパソコン操作等の技術教育にとどまる限り,真の意味で国民の情報リテラシ向上を達成することはできないだろう。
そもそも情報処理技術は,情報の伝達と処理のための技術から新しい社会システムを構築するコミュニティツールへの進化の途上にある。ところが,パソコン等の機器の扱いには熟達できたとしても,真の情報リテラシがなければ,それを社会生活の改善や向上に利用できるとは限らない。むしろ不正や犯罪の手段として利用されてしまうことさえある。
このような状況をかんがみ,真の情報化人材教育とはどういうことなのかを真正面に捉え,実際に活動をしていくことを目的に立ち上げられたのが,NPOとしてのITEDなのである。
4.ITEDの設立とその理念
◆情報処理技術の活用による社会の健全な発展
まず,なによりも情報化人材教育の水準を高めなければならない。また真の意味で国民の情報リテラシを向上させなければならない。そのため,一定の資格(旧通産省情報処理技術者試験の高度分類区分や初級システムアドミニストレータ等)を保有し,社会人としての豊かな経験を持つ者が「情報処理技術の活用による社会の健全な発展」という共通の理念を掲げた。
このような理念を具現化していく上で,ITEDとしては,まず「情報リテラシ」というものが、単にパソコン操作技術のみでないことを,広く社会の各層に強くアピールしていかなければならない。
例えば,職場における情報技術の活用において,ビジネスリテラシが重要であるのは言うまでもない。一方で,情報リテラシが単にコンピュータリテラシとビジネスリテラシを合わせただけのものとは捉えていない。ITEDとして,情報技術を前提に,これらの情報技術を「活用」することによって,ビジネスや社会システムを変革するためのトータルなリテラシを追求する。つまり,「情報技術という横糸を現実の仕事や生活という縦糸に,いかに編み込んでいくか」ということが,ITEDの考える情報リテラシなのである。また,このように考えた時,情報化人材教育にかかわる者のリテラシは残念ながら満足できる水準に到達していないのが現在の状況なのである。
今後ITEDでは,上記のような理念に従って以下のような事業の展開が考えられている。
◆セミナーの開催
◆ITコミュニティ創設のための事業
・シニアITクラブ
・インストラクタコミュニティ
◆コンサルタント等に対する教育支援事業
◆中小企業事業者等に対する情報化支援事業
・情報化実践塾
5.ITEDに向けられる期待と課題
理想に満ちたITEDの理念は賞賛すべきものである。しかし,現実とのギャップに戸惑う部分があるのは否めない。例えば,「真の情報化人材教育」とは具体的にどのようなことなのか?この点について,ITEDは「情報化実践塾」として,次のような具体的なプランを策定し,福山商工会議所との協働作業で試行を始めようとしている。
−情報化実践塾−
福山商工会議所と協働実施。
平成13年7月より平成14年1月まで,全20回,平日夜間2時間づつ開催予定。
研修テーマは「経営戦略」「組織・人事戦略」「財務戦略」「マーケティング戦略」で,それぞれ事例研究を含めた実践的で密度の濃い研修内容となる。ITを道具としていかに活用するかが大きなテーマである。
このような活動の内容を,いかに現場の問題意識とマッチさせていくのか。その道は非常に険しく遠いものと予想される。ただ,一歩一歩着実にステップを踏んでいくうちに,成果はじわじわと出てくると期待したい。
一方で,そのような「じわじわとした成果」というものが,純粋なNPOの活動として,本当に持つのだろうかという不安がぬぐえない。端的に言えば,今回理念であげられているものだけでは,事業体としては食べていけないのではないだろうかという懸念である。
前述のNPOの説明において,非営利といえども事業としての利潤は出していかなければならないと述べた。つまり,ITEDとしての活動についても,その正当な対価を求めていかなければならないわけである。ところが,今もっともITEDのような存在を必要としているのは,決して資金的に余裕のあるとはいえない中小企業事業者または団体なのである。
つまり,ITEDとしては,ITEDの理念の追求とNPOとしての事業運営という意味では,二律背反とも思える大きな課題を背負っているのである。
このような資金面について,今後政策的に何かしらの追い風が吹くことも十分考えられる。ただ,現時点では不確定な要素でしかすぎない。となると,最後はやはり「そこに携わる人」に依る部分が大きく左右するのではないかと私は思う。例えば一人の人間ではできないことも,理念を同じにする人間が集まれば可能となることもあるのは事実である。さらに,ITEDだけではなく,ITEDを取り巻くさまざまなグループとの緩やかな連携の元に,ITEDとしての理念を実現させていくことも不可能ではないだろう。ITED単独ではなく,ITEDを取り巻く人々あるいは情報化人材教育に理解の深い各種関連団体を巻き込んだ,ひとつのムーブメントを形成することができたならば,そのときにこそ本当の意味での「IT革命」のスタートといえるのではないか。今回の設立記念式典に出席しながら私自身そう感じた次第である。
私は現在,上級システムアドミニストレータ連絡会の会長として,さまざまな活動を通じてシスアドの重要性をアピールさせていただいている。ITEDにはこのシスアド連絡会からも数名が会員として参加しているが,ITEDの理念と今後の活動については,非常に興味を持っている。また,私個人としても,可能な限りサポートができればと考えている。
※ITED−CLUBのご案内
ITEDでは,法人設立を機に,ITED−CLUB会員(IT
ED準会員)を広く募集します。ITEDの趣旨にご賛同される
方で,社会教育として情報化人材教育に興味を持つ多くの方々の
入会をお待ち申し上げています。
連絡先:ited-club-owner@egroups.co.jp
以上
Copyright(c)2001 by glory